No.1143833

チートでチートな三国志・そして恋姫†無双

第5章 “貞観の治


色々考えましてPNを変えました。今後はこのPNで小説投稿などしていきます。

2024-05-06 16:31:28 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:105   閲覧ユーザー数:99

 

第74話  理解と発想

 

 

 

 

季節巡り、冬。俺がこれまで誘った中でたった一人、まだ来てくれていない人物がついに来てくれた。厳密には、道中危ないから迎えが欲しいと商人経由で言われ、紫苑、桔梗、それに椿を派遣して連れてくることになっていた。そう。通称、水鏡先生。つまり、司馬徽さんだ。できるならここで儒学を教えてくれたら助かるけど、たぶん無理だよなあ……。それでも、俺や水晶たちと対話してくれるだけで充分に価値があるような気がしている。結局まだ福莱の強みも、俺の知識不足で説明できていないのだから。

 

 

「治安もいいと聞いてね。教え子たちも一緒に連れてきていい、と言ってくれたことには礼を言うよ。ただ、私はここで儒学を教える気はない。それは先に言っておく。」

 

「それは予想していたので大丈夫です。俺が水鏡さんにやってほしいなと思っていることは、俺や水晶あるいは朱里たち軍師と対話を重ねてほしい、それだけです。」

 

朱里たちを教えた学究肌の人物であり、おそらくこの世界では“異端”と言えるほど、もしかしたら俺以上にいろいろと考えることができそうな、これまで会った中である種一番の人物だ。そんな人と対話できる、それほど嬉しいことはない。

 

「なるほど。それなら引き受けよう。君との対話は、私にとっても得るものは非常に大きそうだ。何を話してくれるのかが楽しみだよ。」

 

 

俺のこれまで学んだ知識で説明ができるのかはわからない。でも、やらないよりははるかにマシだろう。使えるのは、現代文、英語、数学か。特に現代文の予備知識が役に立ちそうだ。この学院に入ってから、現代文と英語に関しては革命と言っても過言ではないほど解けるようになった。

 

『現代文は日本語で書いてあるから、皆さんは読めると勘違いしています。論理的に読むことこそ、問題を解くための方法論だと思っています。しかし、それはウソです。英語や古文と同じように、語彙力、そして、何より現代文特有に必要なものとして、文章を読むための予備知識がいるのです。皆さんはまず、漢字問題集の語彙、そして覚えた人から評論読解用の単語集をやってください。もちろんそれは私の授業でも教えていきますが、到底時間が足りません。』

 

現代文の最初の授業でそんなことを言われた。最初は頭に?マークしかなかったけれど、教わっていって、自学でも覚えるうちに、確かに模試も解けるようになってきた。一般人の俺は、読書が好きなほうといっても歴史小説が好きで、現代文が異次元にできるという楠原先輩のように大学生が読むような哲学書を読んでいるわけではない。ゆえに語彙力もなければ、背景知識も何もない。なんでも、先生が言うには、いわゆる難関大学と言えるようなところでは、数学が簡単になろうが、英語の出題のベクトルが変わりようが、現代文だけは昔から難易度がほぼ変化していないらしい。理由は単純で、大学に入ってから難しい論文を読む必要があるから、読解力のない人は欲しくないということです、そう言っていた。

 

『皆さんはめんどくさがりですから、こういった能力の研鑽を嫌がり、現代文は安定しないから、と、答えが一つで配点も高い数学や英語に逃げます。しかし、それでは大学に入ってから困ることになります。入ってから少しでも楽をしたいのなら、今逃げないことです。』

 

そんなことも言われた。そして英語では。

 

「who、という単語を見たことがない人はいませんね。この単語は疑問詞や関係代名詞として、英文中によく出てくることは知っているでしょう。では、皆さんはこれまで出てきた、あるいはこれから読む英文のなかでどう使われていて、それを訳したらどうなるか、正確に判断できますか? もしかしたら、これまでの授業の中には、理由を説明せずに結果だけを説明されたこともあるでしょう。しかし、それでは英語の力は一切伸びません。試験では、自分の力で理由を説明し、正確に判断することが求められるのです。そこに、これまでどう判断するか教えてくれた先生はいません。つまり『なぜ』この語はこういう役割で使われているのか、そこを常に意識して授業を受けて欲しいのです。もちろん、英語の中にも、これはとにもかくにも覚えるほかない、ものはあります。単語もそうですね。都度都度成り立ちを説明していたのでは、時間はいくらあっても足りません。しかし、英語ができるようになるためには、ただ覚えるだけではダメです。とにかく頭を使って『なぜ』を考えることです。」

 

そんな現代文と英語の話が春にあって、そこから3ヶ月ちょいか。自分なりに判断力は上がってきたように思うけど、果たして俺の知識でこの水鏡さんに太刀打ちできるのだろうか。

 

 

「一刀さんはそんなことのためだけに水鏡先生を連れてこさせたのですか……? てっきり儒教を教えさせるためかと……。」

 

「藍里、“だけ”は酷いなあ。いや、もちろん儒教を教えてもらえたら嬉しいよ。でもこの水鏡さんがそれをしてくれるとは到底思えなくてさ。それは、もう少し落ち着いたら霧雨に任せるつもりだ。」

 

「なるほど……。藍里、学究肌の知者との交流は得るものが多いのは間違いありません。何せ水鏡さんはあなたたちを育てた教師なのですから。一刀さんの知識は別格ですが、それをさらに伸ばせるのは間違いないでしょう。」

 

そう水晶が言ってくれた。

 

「さて、対話。そう君は言った。何から始めるかね?」

 

「思考力、理解力、発想力。その3つにはどんな違いがあると思いますか?」

 

「ふむ……。いきなり難しいのがきたね。思考、することによって発想力が生まれるのだろう。理解するにも同じだ。だが……。なるほどそういうことか。福莱と朱里たちの能力の話だろう?」

 

さすがだ……。それをこの情報だけで見抜くのは凄すぎる。そして俺はあのとき福莱に話をした、福莱の理解力のほうが朱里たちの発想力より優れているのではないかという説について話をした。

 

「私はその説には賛同しかねる。しかし、君の気持ちはよくわかる。」

 

「え……?」

 

「その2つの能力に優劣はない。ただ、単純に君たちの元に集った者たちは発想力に優れた者が多いのだろう。そうなれば、どうしたって理解力に優れたものが優位に立つ。少ないほうが優れていると思えたのだろう。」

 

「理解力……。それが、一刀さんの思う、私の優れた部分……。」

 

俺が頷きまくっていると、福莱が感じ入ったようにそう呟いた。確かに、その2つに優劣をつけることがおかしいように思えた。確かに、水晶、朱里、藍里。という筆頭の3人も、椿や玉鬘も、ほぼ全員が、どちらかといえば発想が得意な面々だ。風はバランス型かもしれないけど、どちらかと言われると発想型か。それに対し福莱はまとめ役の達人。つまり理解力に優れていることの証だ。

 

「そこでいずれにせよ必要なのが、“なぜ”だ。君はこれについて何か知らないかね?」

 

「それはたぶん、俺の世界で『論理』と呼ばれているものだと思います。とあるできごと、一がおきるためには、二、というできごとが必要になる。そんなときに、そのふたつをつなげるもののことを、論理、と呼んでいる気がします。俺自身、この『なぜ』にはできる限りこだわってきたと思っていますけど、その『なぜ』そのものの意味を正確に説明はできないと思います。それでも、ここにいる人の中ではたぶん一番よく知っていると思います。

 

ちなみに、甄、お前はこれに関してはどうなんだ?」

 

「いわゆる哲学か。残念ながらさほど詳しくはない。古代西洋は民衆、つまり下から、中世は神、つまり上から、それが近代になるとまた下からの萌芽となることくらいだな。東洋においてはお前も知っての通り、仏教と儒教が全てなのでな。」

 

要は考え方の話か。自分たちで考えるものか、“神”という上から与えられるものか、それによって考え方も大きく変わってくる。

 

「哲学……?」

 

「論理、だとか小難しい話のことを総称してそう言うんだよ。確か、すごく乱暴に言ってしまうと『物事を誰もが納得できるように説明することを探求する学問……』だったような。」

 

「ふむ……。君は、自分が考えているとき、自分が存在している、そう思ったことはあるかね? む、どうした?」

 

朱里の疑問を俺が説明したあと、水鏡さんはそんな話をしてきた。俺は思わず後ずさっていた。

 

「コギト、エルゴ、スム……。」

 

「こぎ?」

 

デカルトが何年頃の人だったかは忘れたけど、近代哲学の祖とまで言われている人物のあの名言を、漢代の中国で考えてる人がいるとか、ある意味では誰よりヤバイ人じゃないか、この人??

 

「我思う、故に我あり。」

 

「一刀さんも水鏡先生も、なんでそんな話を一切教えてくれなかったのですか……。」

 

「当然だろう。自分がなぜここにいるのか、ここにいる自分は本当に自分なのか、そんなことを教えたところで、普通の人は気が狂ったと思うだけさね。そもそも理解できないだろう。とはいえ、君と対話するのは確かに面白い。それでいて学ぶことは多くある。ふむ……。そのお礼として、儒教を直接教える気はないが、教本を書こうと思う。要は入門書だ。君たちにとって、それから得るものは多かろう。」

 

水鏡さんは最後にそう言ってくれた。それはとてもありがたい申し出だった。これからもこの人と対話して知識の研鑽につとめるしかないだろう。

 

 
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